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東京家庭裁判所 昭和40年(少ハ)5号 決定 1965年2月01日

少年 Y・K(昭二〇・九・二九生)

主文

少年を昭和四二年一月三一日まで特別少年院に戻して収容する。

理由

一、少年は昭和三七年一二月二一日東京家庭裁判所において、東京保護観察所長の通告に係る虞犯保護事件により中等少年院に送致され、多摩少年院に収容された後、自傷行為(左腕関節部切創~自殺未遂?)があつて、昭和三八年一月二五日関東医療少年院に移され、爾来同院において治療と矯正教育を受け昭和三九年一月二〇日仮退院したものである。

二、この仮退院に際し、九項目にわたる遵守事項について違反しない旨の誓約をしたにかかわらず、その後このうち、(a)善行を保持すること。(b)自分勝手な行動を慎しみ、堅実な生活を営むこと。(c)保護観察官、保護司の指示をよく守ることの各事項に違反して次のような行動があつた。

(一)  昭和三九年六月下旬家出し、その際、前記仮退院後間もない頃から交際していた○林○子(昭和二〇年七月八日生)を連れ出し、同年七月六日頃母の許に帰宅するまでの間、両名で東京都内、伊豆大島、伊東、葉山等各地を転々と遊びまわり、この間同女と肉体関係を続け、

(二)  同年八月初旬○川○子(当一九歳)と偶々知合い親交を結び、同女との縁談を進める一方、当時高等学校二年在学中の○田△子(昭和二三年二月一六日生)とも交際をはじめ、同年一〇月三〇日頃、少年の友人達と共に右△子をドライブに誘いその帰途、言葉巧みに旅館に連れ込み同所において肉体関係を結び、

(三)  前記(一)、(二)の事実につき、昭和三九年一一月一二日東京保護観察所に呼出され、主任官から厳重な説諭を受けて、かさねて更生を誓つたにかかわらず、同年一二月中旬頃、台東区上野仲通り喫茶店において、偶々来店中の○田○江(昭和二二年一〇月二五日生)を見かけるや直ちに言い寄り、数日後には同女を旅館に誘い込んで肉体関係を結び、更に、昭和四〇年一月二日頃から同八日頃まで及びその翌日から同月一三日に至るまでの間二回にわたり同女を伴つて福島県土湯、群馬県水上、東京都内等を諸々遊びまわり、その間同女と肉体関係を続け、

ていた。

三、以上の違反事実は、少年の当審判廷における供述及び保護観察官作成に係る質問調書六通並びに誓約書を綜合して認めることができる。

四、要保護性

少年は昭和三六年六月恐喝、強盗で保護観察に付されている。その後観察所長の虞犯通告により昭和三七年一二月二一日中等少年院(医療に移る)に送致され昭和三九年一月二〇日仮退院したことは前記の通りである。仮退院のとき文京区○○○○町○○番地のアパート○林荘にいる実母の許に帰住した。そして先の保護観察当時の担当保護司大道寺氏の斡旋で、昭和三九年二月一日から台東区○○○町の○○鉄工所に通勤することになつたが、実母は内縁の夫と同棲していて、前記本籍の場所にバーを経営しており、夜間少年は殆んど放任されている状態であつた。この母に対し、少年は極めて依存的であると同時に何か裏切られたという強い悪感情を持つている。この矛盾した感情の相剋は少年の心情質変調に大きな原因を与えているように思える。

昭和三九年一〇月から勤め先○○鉄工所に住み込むことになつた。しかし、遵守事項違反行動はその前から始まつていたもので、その後も続いている。少年の女性に対する不純な交遊関係は中学時代に始まつている。従つて今回の女性に対する非倫理的行為の繰返しは偶然なものでなく、相当根の深いものと考えなければならない。只、今回の引致、留置、審判を経過する間に、自己の非行性について自覚と反省心が出たようにも思える。少年も責任を感じ戻収容を当然のこととしている。そして「少年院に戻されても、今後は一生懸命にやります」と述べている。あるいは、少年の女関係の経験が、同時に母の一部を理解し依存性の整理に役立つているのかも知れない。

鑑別結果によると、抑うつ性及び爆発性の変調が極めて高度で精神病質傾向と診断されている。そのほか淋疾もみられる。

実母は意見書を提出し、少年が保護司の指導に従わないのだから裁判所の裁きに従うべきだとしている。何か少年に対し冷い感じであつて、在宅矯正を可能とするだけの保護能力はないものと考える。

今後少年は一人前の成人としての心構えを準備しなければならないのであるが、そのためには少なくとも母への依存的な考え方や感情を捨てるようにすると同時に、人間としての生身の母を理解するように指導されねばならない。母には母の幸或は不幸があり、少年の幸不幸とは一致すべきものでないことを悟らねばならないのである。大人の眼で母を見ることができなければならないのである。それで、少年の性格、環境関係を綜合考察すると母への理解を中心とした少年の社会適応性を恢復するためには、少年を特別少年院に収容の上、矯正教育を施す必要があり、その収容期間は仮退院後の社会指導期間も含めて考慮すると、申請意見のとおり今後二年を相当と思料される。

よつて犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条に従い主文のとおり決定する。

(裁判官 海野賢三郎)

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